不思議なスポーツ「ゴルフ」

 

 ゴルフを始めたのが、26歳のときだった。当時ゴルフは一般人が一生懸命取り組んだとしても、始めた年齢の半分のハンデまでしか到達できないといわれていた。26歳で始めたら、その半分だから13までしか到達できないことになる。今から振り返ってみると、事実であった。

 53歳で、ゴルフコースの会員権を入手して、毎週日曜日はゴルフをしていて、年間50回を越えるほど本気で取り組んでいたころは、ハンデが13までいったことがある。

 ところが、55歳のとき、あるコンペで、バックスイングのトップで、あれ、これでいいのかなと、一瞬止めてみた。すると、それ以降のスイングで、トップで止まってしまいスムーズなスイングができなくなってしまった。

 これは大変なことになったと、練習場で練習量を増やしてみたが、やればやるほど症状は重症になる一方であった。

 ある年末年始の休日が9日あったことだったが、その休日をスイングの初歩からやり直そうと、小さいスイングから、毎日徹底的に練習したところ、9日の休日が終わる頃には、ごく小さなスイングさえ、トップで止まってしまい、振り下ろすことができなくなってしまった。

振り下ろすには、ぶるぶる震えるほど、渾身の力を込めても、振り下ろせない。真冬だというのに、練習場の足下のゴムマットが、したたる汗でびしょ濡れになるほどで、頭からは湯気がぼうぼうで、みっともなくて仕方がない。

 こと、ここに至り、もうゴルフをやめるしかないとして、欠かさず出場していた二つの所属コースの競技会もすべて断念した。

 結局、イップス病というゴルフ特有の病で、プロでもかかるという。ただし、プロはパターがストロークできなくなるらしい。ネットで「イップス病」を検索すると、多くの例がヒットする。ユーチューブでそのスイング例をみると、まさに私の経験そのものである。それらを参考に幾多の対策をこころみたものの、改善のきざしは見えない。

 定年退職して、本来ゴルフ三昧の生活も可能であるのに、まるでコースに行く気も起きないので、年に数回、思い出したように、所属コースの、競技会はおこがましいので、シニアレディスのお遊びコンペに出場しているが、スイングがまともにできないのでは、楽しくもない。まるで苦行である。

 それでは、ゴルフを金輪際やめてしまうかとも考えたが、40年以上一生懸命取り組んできた遊びを捨て去るにはあまりにしのびない。

 そんな折、近所にゴルフ専門学校があることを知り、団体レッスンコースではなく、わたしの場合は特殊なケースであるから、個人レッスンコースを選択した。週1回、半年ほど受講したとき、大雪があり、学校のテント屋根がつぶれて廃校になってしまった。もちろん半年のレッスンではほとんど改善は見られなかった。

 個人練習でも学校でも、素振りは何の異常もないので、単に精神的な問題であるから、

なにかのきっかけで改善する希望はあるものの、どうすべきかわからない。

 わらにもすがる思いで、練習場の新任のプロの指導を仰ぐことにした。そのプロは、シニアオープンの予選にも出場したそうであるから、期待が持てそうであった。

 受講するようになって1年以上になるが、指導を受けているときは、なんとかスイングできるものの、コースへ行くと、全く元の木阿弥。精神の問題は、練習場ではどうにもならないようである。

 そんな折り、高校の同期会のコンペの誘いが来た。同級の女性からであった。わたしは事情を文書で綴り、こういうわけでゴルフをやめようかどうか迷っているところだと、説明したところ、同期会のコンペはそんなスコアを競うものではなく、懐かしい仲間と楽しく遊ぶことが目的だと諭された。

 たしかにそのとおりであるので、参加してみた。50年ぶりの再会で、名前と顔がまったく一致しないにもかかわらず、おい、お前の世界が即生まれるのが、高校同期会というものであることがわかった。ありがたくも貴重な体験であった。

 これに味をしめて、会社の同期入社のコンペにも参加してみた。入社以来部門が異なれば50年ぶりの再会であるが、会った瞬間から、おい、お前である。ありがたいことである。

 ゴルフでもなければ、なかなか会おうということにはならない。これがゴルフの良いところであるので、これからも何とか続けたい。70歳過ぎればなおのことである。

 そんな新しいゴルフ生活を経験し、久しぶりに所属コースの競技会に参加してみたところ、パートナーは、68歳、70歳、72歳、79歳であった。なんと平均年齢が70歳を越えているではないか。最近、若者はあまりゴルフをしないとは聞いていたが、全員が老人であることには驚いてしまった。スコアをあまり気にしないゴルフをしたせいか、いつものイップス病はそれほどひどくなく、楽しいゴルフであった。

 その報告を兼ねて練習場のプロに診断してもらったところ、見違えるようなスムーズなスイングになっているとのこと。

 ひょっとすると治るかも知れない。もし、治ったらバラ色のゴルフ人生が待っている。