アベノミクス

 

 安倍政権が昨年12月に誕生したが、政権誕生前から円安株高が始まった。それはアベノミクスと言われている、いわゆる三本の矢の経済効果を期待しての、市場の反応である。

 経済評論家、たとえば浜 矩子同志社大学院教授などは、これは、経済的には何も変わっていないのに、投機家が先読みをした投資の結果であり、バブルに過ぎない。従ってバブルは必ずはじけるものと決まっている、と批判的である。

 だけど、ちょっと待ってほしい。為替レートが1ドル76円とか、日経平均株価7000円などが、本当に日本経済の実態を反映した価格だったのだろうか。

 円高は日本経済の強さの証だとすれば、日経平均株価7000円は矛盾していないだろうか。7000円というのは、一部上場銘柄平均PBR(株価純資産倍率)が0.6程度にしかならない。すなわち、すべての資産を売却したほうが、企業活動を継続するよりマシだと言うことを意味している。あまりではないか。どんな経済危機の国でもこんな国はない。

 こんなあまりに偏った価格は、全く経済実態を反映していないと言える。こういうのを本当のバブル、いや、逆のバブルと言った方が適切かもしれない。逆のバブルであってもバブルはバブル、いつかはじけるのであって、その場合ははじけるというよりは正常化と言っても良い。現在の状況はその正常化の過程であって、バブルではない。その証拠にリーマンショック前のそれと比較すればよくわかる。為替レートは1ドル100円以上だったし、日経平均株価は14000円程度であった。

 では何故、日本だけが異常な経過をたどったのかは、日銀の責任もある。通貨発行残高はアメリカはリーマンショック以来3倍以上なのに対し日本は1.4倍にとどまっている。世界各国がアメリカほどでないにしても、金融緩和策をとったのに対し、日本だけが別の道を進んだため、市場は日本を狙い撃ちにした。これを指摘したのがアベノミクスの一本目の矢、大胆な金融緩和であった。大胆と言ったって世界各国のやってきた当たり前もことである。

 景気は気のものと言われるが、首相が言っただけでこんなに大きく価格が変動するとは驚きである。今や、実体経済より投棄による影響の方が大だということであろう。

 アメリカハーバード大学のサンデル教授のテレビ公開講座で紹介していたが、現在世界のGDP年間総額は63兆ドル、株債券取引額総額が87兆ドル、デリバティブ取引が601兆ドル、為替取引が955兆ドルだという(ドイツ シュピーゲル誌引用)。世界の取引のほとんどは実態経済に関係なく、デリバティブや為替投機だといってよい。

 また、この過大な投資は基本的に売りを仕掛け価格を引き下げる過程で収益を上げることを目的にしている。この方法が世界的に有名になったのが、1992年にあのヘッジファンド、ジョージ・ソロスがイギリスのポンドに売りを仕掛けて、一週間あまりで20億ドルを稼いだブラックウエンズデイとよばれている事件である。

 さらにヘッジファンドはロシアの経済危機にルーブルに売りを仕掛けたが、LTCMファンドは20億ドルの損失で経営破綻に、ジョージ・ソロスのクオンタムファンドは10億ドルの損失を被った。市場の力に頼った投資手法はロシアマフィアには通用しなかったということであろう。

 その後ヘッジファンドの投資はデリバティブ取引を拡大していったが、その手法が破綻した例はあのリーマンショックであった。それまでは、デリバティブ取引はヘッジファンドが主体で、一般銀行は行っていなかったが、1910年ボルカールールによって禁止が解除されて、サブプライムローンのようなリスクの高いものを扱うようになった結果である。

 そして現在は、デリバティブや為替投資は、株債券といった実経済投資の10倍以上という時代である。これでは、為替レートや株価が実態を反映するどころか、ヘッジファンドの気次第ということにならざるを得ない。しかも、ヘッジファンドは価格が変動する過程でしか収益を上げられないから、価格変動はますます激しくなる。

 現在の状況は、アベノミクスの効果というよりは、こういった投資環境が生んだものだろう。それにしても、数ヶ月の間にドルが20円も変動するなんて、正常な経済活動が維持できるものではない。それに比べれば、TPPなんて、いとも対処可能なものではないだろうか。

 それなりに対処すれば良いのだ。安倍首相の言うとおり、参加しないで孤立をすることこそが、絶対避けなければならないことなのだ。

 日本農業の危機が叫ばれているが、ガットウルグアイラウンドの折にも同様な議論があり、農業に6兆円もの助成がなされたが、何も改善されなかった。カネの問題ではないことがよくわかる。いまこそ、TPPにかかわらず政治主導の農業改革が求められるのだ。農業保護のためにTPP離脱など、愚の骨頂でありどんな圧力にも屈してはならない。

 その点で安倍首相はよくやっている。そして反対はしても一旦決定したら、一丸となって推進する自民党となって初めて決める政府となり、国民から信頼を勝ち取ることができる。

     以上