Post Truth(ポストトゥルース)

 

この言葉は、イギリスの英英辞典「オックスフォード辞典」の出版会社が、2016年の流行語のトップに選定した言語で、日本語に訳すと、「客観的事実が重視されず、感情的訴えが政治的に顕著な影響を与える状況」ということである。

その背景には、イギリスのEU離脱やアメリカの大統領選でトランプ大統領が誕生した現象が、客観的事実が世論を導いたというよりは、ネット上に氾濫する、「ウソのような本当のハナシ」どころか、むしろ、「本当のようなウソのハナシ」の方が、人々の感情を刺激し、その集大成が、国民投票や選挙結果に影響を与えたという説には、十分説得力がある。

情報によると、ロシアの反クリントン、トランプ応援を策したネット情報は200件を超え、ネット検索数は1500万回を超えたという。

このようなある意図を持って流された情報は事実に基づくものもあるかもしれないが、ほとんど事実を装った偽情報のはずだが、人々は、当たり前の事実より、センセーショナルな情報に、吸い寄せられるばかりではなく、感情移入してしまい、それは投票行動に多大な影響を与えることになる。

この現象は、必ずしもネットに頼らない時代にも存在していた。たとえば、戦時中の朝鮮人慰安婦の問題などは、その典型であろう。慰安婦といってもそれは性奴隷と言ってもよいほど悲惨であり、その募集にあたっては、軍が朝鮮人部落をトラックで乗り付け、銃剣と暴力で拉致してきたとの説を、現在の韓国では「歴史の真実」と信じており、それを、それは事実ではないとの意見は、即、「歴史の歪曲」と決めつける。

この例でも明らかなように、人々は、単なる売春婦というよりは、いたいけな少女を軍が銃剣で脅し拉致し、性奴隷にしたというほうが、人々の感情を強く刺激することはまちがいない。被害者感情はセンセーショナルであればあるほど強調されるから、ハナシをいきおいエスカレートすることになる。

そして、拉致に荷担したという人の体験談まで出版され、時代の寵児にさえなった。作者の吉田清治氏は後に作り話であったことを認めたが、一端蔓延した情報を取り消すことはできなかった。氏は何故そのような体験談を出版したかを、新聞記者に問われて、「新聞記者だって同じでしょう、売れるためには事実ばかりではないでしょう」と答えている。

このようにセンセショーナルな偽情報に魅せられるのは、人間の哀しい性かもしれない。確かに殺人もなく、悪人も登場しない小説を誰が読むであろうか。

ましてや、被害者感情をあおるには、ハナシはエスカレートする。その数は今や20万人を超えるとされている。当時の朝鮮の人口から推定すると、その年代の女性の3割にも及ぶ数である。

このように、売らんがために書かれた本の内容が、国と国の関係を根底から覆すほどの現象が生まれることこそ、Post Truthを単なる流行では済まされない重要な意味を持っている。

南京虐殺を描いたアイリスチャン氏の「レイプオブ南京」もこの部類にはいるだろう。氏はこの著作を発表後数年で、その影響の重圧に耐えかねたのか自殺を遂げている。吉田清治氏のように、売れるためには誰でもその程度のウソは書くでしょうと、開き直れなかったのが哀れである。

Post Truthと並んで同じような意味でAlternative Factも有名になった。約してAlt.Factと表現されることが多いが、「別の事実」と言ったところだろう。

トランプ大統領が自身の大統領就任式の参列者数は、オバマ大統領のそれを上回り、史上最大だったとの発表を受けて、その真偽を問われた大統領顧問のケリーアン.コンウエイ氏は、それをAlt.Factと表現して、居並ぶ記者達を唖然とさせた。Truthと言わなかったところが面白い。確信犯である。

大統領就任式の参列者数なんぞは、Alt.Factだと笑って済ませるかもしれないが、記者会見でCNNを罵倒した、モスクアでのスキャンダル報道は、そうはいかなかったようだ。

一泊169万円もする高級ホテルのスイートルームで、売春婦数人を雇い、オバマ大統領も使用したであろうベッドで、放尿させて汚し、黄金シャワーと言って楽しんだというものだ。これは、イギリスの元MI6に属したクリストファー.スチール氏がリークしたもので、かなり信憑性が高い。なぜなら、氏のこれまでの実績は、反プーチン大統領のリトビネンコ氏をポロニウムを使って暗殺したとか、ロシアの国家ぐるみのドーピング疑惑を暴いたものなど、超一流の諜報活動があるからである。

さすがのトランプ大統領も、Fake Newsだと言って怒り狂うしか方がなかったのであろう。なかったことがAlt.Factであるとして、割り切ることはできなかったのだ。

今後、世界は誰もが認める客観的な事実より、ネットなどで人々の関心を集めるために流された情報が蔓延し、人々はその情報に引き寄せられ、それがいつしかAlt.FactからPost Truthに、そしてやがてそれは歴史的真実とされ、国と国の仲を険悪なものに変えて行く恐れがある。

韓国の慰安婦を象徴する少女の像はその具体例であろう。それは今や、二国間の問題ではなく、世界に広がろうとしている。