AIJ

 

 AIJ問題が社会をにぎわしている。厚生年金基金の運用に失敗して2000億円もの損失を出したにもかかわらず、それを隠蔽したばかりではなく、年5〜8パーセントもの高利回りの運用報告をねつ造して、それをもって新規顧客を募集していたというから、これは詐欺と言ってもよい。しかし、国会での参考人質疑に対し、当の浅川社長はだますつもりはなく、運用で損失を取り戻すべく努力していたと、証言していた。

 取り戻すべく努力さえしていれば、許されると思っているのだろうか。確かに投資というものは好いときも悪いときもあるものだが、だからといって運用報告をねつ造していたのでは、顧客は何を信じれば良いのだろうか。報道では、年金基金の担当者は厚生労働省や社会保険庁の天下りが多く、年金運用は素人だったため、偽りを見抜けなかったことにも責任があるような内容が多かったが、運用報告に偽りがあることを見抜くことなどできるのだろうか。今回は確かにリーマンショック後も安定した高利回りはおかしいというわかりやすい証拠があったかも知れないが、少しだけねつ造してあったら、見抜くことなどできるはずがない。そもそも、運用報告が自由に作れることが、今回の事件の核心ではないだろうか。

 オリンパスお損失隠しもそうであるが、損失を帳簿上違う形で計上して(とばしというそうであるが)処理してしまっても通用してしまう。そのときいずれもケイマン諸島の架空会社が利用されるようだ。また、いずれも元野村證券の有能な社員が関わっているようである。オリンパスの場合はその会社だけの損失ですむが、今回は年金基金というからことは深刻だ。厚生年金だったら国がなんとかしてくれるという期待もあるが、企業年金の一種である年金基金は、加入する会社、それも中小の企業が組合を組織して年金基金を作っているわけだから、損失はまるまるその企業の負担となってしまう。

 また、悪いことに、年金基金は一部厚生年金も合わせて運用しているそうで、その部分は国に返還しなければならないという。これでは助けてもらうどころか、泣き面にハチである。その負担に耐えきれずに倒産に追い込まれる会社もあり、その場合はその負担分を残りの会社の負担として、のしかかってくると言うから、連鎖倒産という心配も出てくる。

 そもそも何故このようなことが起きうる社会になってしまったのだろうか。

 これまでも和牛商法とか悪徳商法はあったが、いずれも投資対象が金であったり、和牛であったり対象があったものだが、今回は単なる投資、言ってみればヘッジファンドだ。

金融ビッグバン、グローバリズムの時代には、貯蓄から投資の時代だとあおられて、金利0の時代に、猫も杓子も投資へ走った。それを一手に担ったのがヘッジファンドだ。

世界でもっとも有名なヘッジファンドはかのジョージ・ソロスだ。ソロスの名を世界にとどろかせたのは、イギリスのポンドに売りを仕掛け、一週間ほどの間に20億ドルを稼いだあの1992年のブラックウエンズデイだ。

 こんな例もあるから、浅川社長は2000億円もの損失でも、「取り戻す自信はあった」などといっているのだろう。

 ソロスの手法というのは基本的に売りからである。見かけの価値が実質を伴っていないとみると、売りを仕掛けるのである。

 一般常識からいうと、投資というものは、将来の成長を予測して買ったものが値上がりすることによって、その差額を稼ぐということだ。私自身も、退職金を貯金しておいても金利がほぼゼロであったため、銀行の勧めるまま、長期保有を前提としたファンドに半分、残りを自社株で保有して、老後に備えることにした。その結果は、10年もたたないうちに、そのファンドは終了ということで償還され、マイナス1500万円が確定してしまった。自社株の方も原発事故の影響でほぼゼロということで、老後は真っ暗闇になってしまった。

 そもそも投資というものはハイリスク ハイリターンと言われているが、稼いでいる人が本当にいるのだろうか。もしいたとしてもごく一部の特殊な人だろう。サラリーマンが退職金を、銀行員が勧める長期安定運用型のファンドが10年足らずで、強制償還でマイナス1500万円というのはあまりではないか。

 貯蓄から投資へというが、ゼロ金利でも銀行に預金していた人が一番得している。それはデフレだからだ。物価が下がれば、実質高金利ということだ。だから銀行も預かったお金を貸し出して金利を稼ぐという本来の役目を放棄して、国債を購入する能しかない。しかも赤字国債だ。国の負債残高はGNP2倍を超え、ギリシャ(1.6倍)どころではない。これでは経済成長どころではない。

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。わたしは、投資が売りから入る手法が問題のような気がする。売りから入ると値下がりしなければ稼げない。ソロスのような世界的なヘッジファンドが売りから入って稼ぐということは、大きなカネが値下がりするために投資されているということだ。経済成長ではなく価格操作のために投資されているようなものだ。しかも、欧米の名だたる銀行がソロスに投資されているというから、世界中のカネが値下げ価格操作のために、使われていることになる。そして一部の人だけが潤うことになる。ヘッジファンドマネージャの報酬が最近また何百万ドルまで高騰しているときく。浅川社長もそのつもりなのだろう。

                  以上