浜岡原発運転停止の是非を問う

 

 3月、福島原発震災時故対策について、国会で福島社民党党首は、菅総理大臣に激しく迫った。「今回の原発事故で、絶対安全だとして国が進めてきた原子力発電は、実は安全でないことが判明したのだから、直ちにすべての原発は停止すべきだ」と。それに対し、菅総理は「徹底的に事故原因を分析して、今後の原子力行政はどうあるべきかの再評価を行う」と、答弁していた。

 ところがここにいたって急きょ、浜岡原発の運転停止要請がなされた。その理由は東南海地震が、今後30年間にマグニチュード8以上の地震が起きる確率が87パーセントときわめて高いからだという。

 中部電力としては、福島原発の津波事故を教訓に、予備ジーゼル発電機を高台に設置したり、予備電源車の確保などのほかに、12m規模の防潮堤の設置計画などの対策を推進中であったにも関わらずにである。

 この判断には大きな矛盾をはらんでいる。それは、地震による津波に対しては対策が取られている訳であるから、それ以外の理由であるはずであるはずであるが、地震の発生の高いことを理由にしていることは、中部電力の津波対策が不十分であるという判定をしていることにある。多分、12mと津波を想定してもそれ以上の津波が発生したら、福島原発事故が再発生するという前提に立っていると思われる。

 しかし、福島原発事故原因は、予備電源確保ができなかったことによるもので、予備電源確保だけだったら、どんな地震が起きようが、どんな津波が発生しようが、実現することはさほど難しいことではない。そんなことは中部電力の技術者に任せておけばできる。

 以上のことは、事故というものは同じ事故原因で発生することは、ヒューマンエラーを除いてはほとんど起きないことを意味している。車のリコールと似ている。

 また、浜岡は福島と異なり、同じ中部電力営業区域内にあるため、予備電源系統を別系統から引きれておくことはいとも容易なことである。しかもその系統も停電になったときのために、その系統に水力発電所を配置して、川の水が途絶えさえしなければ、予備電源供給力として確保も可能である。事実、東電管内の揚水発電所ではそうしているところが普通である。

 福島原発も4mもの津波に埋もれて壊滅したような報道がなされているが、発電所内に水が浸入した形跡がない。ということは、事故後作業員が発電所地下室で、くるぶしまでの放射能汚染水に被曝したことがあったとおり、くるぶしまでしか水はなかったはずである。その水も事故後外部から炉冷却のために送水されたものだったはずだ。

 以上の実態を十分踏まえれば、運転停止要請という判断が出てくるはずがない。それがここにいたって急きょ発表された裏には、実態を十分反映したのではなく、文字通りの「熟慮」の結果ではないだろうか。それは原子力発電所の地震津波の事故防止ではなく、福島社民党党首が主張するとおり、どんな対策を取ろうが、絶対はあり得ないから、地震の確率が高い浜岡原発は停止すべきだとうことだろう。

 確かに今回の判断を歓迎する世論も多い。それはそうであろう、一般民衆にしてみれば、そんな原発よりは、太陽光や、風力、水力などの自然エネルギーのほうが好ましいに決まっている。その第一歩ととらえればそれは大歓迎であろう。

 事実テレビのコメンテータのコメントは東南海にマグニチュード8規模の地震が発生すれば、福島規模の災害は避けられないことを前提に論じている。予備電源が確保できなかったことは、大災害のほんの一部であったが、冷却水の喪失により、炉心熔融という致命的な災害に発展したということを前提に論じている。なぜ、予備電源さえ確保できていれば、大災害には発展しなかったということに、目をそむけるのであろうか。想像を超える津波が発生すると、予備電源は確保できるはずがないという発想に立っている。

 福島原発事故後に、アメリカから浜岡原発を止めるよう強い圧力があったことを、58日のテレビ報道で知った。アメリカとしては福島第一とほとんど同じ設備構成の浜岡は、設計に織り込んだ以上の津波が発生すれば、福島と同様な災害につながると想定することは、至極当たり前のことである。設計の前提が崩れれば安全が確保できるはずがないという合理性には何人も反論できない。福島第一もその理由で、平安時代に起きた貞観地震の津波が14mを超えたという研究も発表されていたにもかかわらず、学術的評価を待つ(東電武藤栄副社長談)との理由で対策をとらなかったという。

 それはそうであろう。設計の前提が変わることは、発電所存在そのものを否定することにもつながりかねないからである。

 ところが今回の事故の内容をみると、予備電源さえ確保できていれば、炉心熔融という致命的災害は防げたはずである。その証拠に56号機は予備ジーゼル発電機3台のうち1台は空冷であったため、屋外に設置した冷却水ポンプがなかったため、かろうじて予備電源を確保でき、災害は回避できた。早い話が福島第一発電所の予備ジーゼル発電機がすべて空冷式であっただけで、今回の災害は予防できたことになる。それ以外の設備の津波被害などは、ゆっくり修理すればよいだけでどうということもない。

 菅総理は以上の内容を熟慮に入れてくれただろうか。いや、入れたはずがない、もし入れていたら、運転停止ではなく、津波対策を考慮した予備電源確保策だろうから。

 しかし、そんなことは総理大臣から指示されるまでもなく、多分すべての原発ですでに検討は完了しているはずである。その点でいえば、浜岡の防潮堤の建設に23年かかるというのはいただけない。そんな悠長なことを言っているから、政治主導と称して運転停止要請が出される余地ができてしまう。