デフレ対策

 デフレ対策としてインフレターゲットの導入是否が議論されている。

 導入賛成派はまさか、デフレ対策はインフレに決まっているというような単純なはなしではなく、経済学的に判断した結果だろう。それに対し、元大蔵省財務官だった榊原英資氏(現慶応義塾大學教授)は、現在のデフレはこれまでのデフレとは異なり、全世界的な構造的なものだと主張する。冷戦が終わり東欧や中国など地球規模の経済グローバル化の結果だという。したがって、インフレターゲットというようなマクロ経済対策によって改善できるような筋合いのものではないと主張する。

 私は経済の専門家でも何でもないのでどちらが正しいかは判断できないが、ただひとつ重要な視点が欠けているように思えてならない。

 それは、アメリカの戦略によってジャパンアズナンバーワンから引きづりおろされた結果だということである。ビッグバン、市場原理、グローバリズム、BIS規制、企業会計規則改定、ISO9000、規制緩和、構造改革、ペイオフ、ダンピング提訴等々、どれをとってもアメリカからの圧力以外のものはない。もちろん、これからの企業の生き残りに必要なことだと自ら判断したものではあるが、そのなかで、日本に有益であったものがひとつでもあるだろうか。ダンピング提訴などはもっぱら被害者でしかなく、中国に対しダンピング提訴どころかセーフガードを発令しただけで、それ以上の対抗措置を受ける始末である。中国のほうがよっぽど生き残りの戦略ができている。

 アメリカの対日本戦略は、冷戦が終わった1990年、ベーカー国務長官のもと、CIAがつくった「ジャパン2000」という名のプロジェクトによるものだといわれている。

 戦略どおり日本経済は9兆円もの貿易黒字でありながら、デフレ不況は深刻化するばかりであり、平均株価8300円あたりをうろうろしている。その原因を不良債権のせいにしているが、不良債権を処理しようとすると、企業再生どころか多くの企業倒産を産む。

 竹中大臣は断固これを実行することを目指しているが、これもアメリカの思うツボであある。山一證券が破綻してメリルリンチにのっとられ、5兆円もの公的資金を投入して救済した長銀はリップルウッドホールディングにわずか百数十億円で売り渡し、8000億円以上の巨費を投じて開発した宮崎シーガイヤもわずか百数十億円で同じくリップルウッドに売り渡している。アメリカとしては笑いが止まらないといったところだろう。

 なぜこうなってしまったのかは、アメリカの施策をすべて日本自身の問題として取り入れたからだ。また、取り入れざるを得ない状況に追いこまれたからだ。

 それは株価の低迷だ。アメリカはヘッジファンドを主体に日本株式に空売りをかけてきたが、日本の機関投資家は買い支えるのではなく、空売りに必要な株券一時貸し出し賃稼ぎを行い、むしろ空売りのお手伝いをしてしまった。また、個人投資家は、下げ一本調子の株式市場では手が出ないというよりは、バブル時に購入した高値の株が塩漬けになっており動きがとれない。

 株価というのは企業業績を反映するものだから、空売りされないような業績を上げることが先ず先決だと、学者も評論家も政府もいう。株の本来の姿はそのとおりでああるが、最近の日本の株式市場はそうではないことがわかった。なぜかというと、もしそのとおりならば、史上空前の利益を上げたトヨタの株などはどんどん上がって良いはずなのに、上がり下がりはその他大勢の株価と同じ動きをしている。個別の株の売り買いというよりは市場全体に空売りをかけているからだ。このことは、図らずも1月26日のNHKテレビ番組「NHKスペシャル」でアメリカのトレーダが現在の日本株式市場は空売りさえかければ間違いなく儲かると言っていた。その元では日本の年金などが金利低下などで行場を失ったマネーが流れ込んでいるという。

 なんとかおの悪循環から脱することはできないだろうか。小泉首相は構造改革と不良債権処理さえすれば、回復できるといっているが、戦略に対し正攻法で果たして通用するだろうか。戦略には戦略をもって対処しなければ、相手の思うツボにはまってしまう。

 その点でインフレターゲットは一戦略であることはまちがいない。

 インフレになれば、金利は上がり、土地はあがり、需要は喚起され、円安になり、不良債権は減り、株価は上がり、すべて解決する。ただひとつ国債が下がることくらいが問題だろうが、国債の替わりに株価があがればそれでよいのではないだろうか。

 その辺がちょっとわからない。

 もうひとつはアメリカの空売りに対抗して、日本の機関投資家が団結して、から買いで対抗することだ。日本の個人金融資産は1400兆円にものぼる。これはほとんど運用は機関投資家に任されている。金利が低下し、株価が低迷するから運用に困って仕方なく、リゾート施設など箱ものを作った結果が、不良債権に拍車がかかったのではないのだろうか。

 アメリカの空売りと日本のから買いが本気で戦えば、資金力が勝る方が勝つに決まっている。それが、実際は、日本のマネーが廻りめぐって、日本の株式市場のから売りの資金となっていることが残念でならない。

 日本経済は株価さえ回復すればすべてが解決するのではないだろうか。

 株とは美人投票のようなもの、どの企業がいくらでなければいけないという基準がない。

だからあのようなバブルが起こったのだ。あれほどのバブルではなくともバブルターゲットを設けてもよいのではないだろうか。