鈴木宗男

 

 昨日,国会で証人喚問が行われた。いつものように「記憶にない」「反省する」で終始したようである。野党は辞職を要求し,自民党は離党を勧告して幕引きということになることだろう。

 今回の件で鈴木宗男が糾弾されているのは,自己の選挙区の業者が受注できるよう,援助事業について外務省に強い圧力をかけたということらしい。その他いくつかの疑惑が出ているが,確かにダーティーではあるものの,それほど大騒ぎするほどのものではない。

 むしろ,大騒ぎすべきは,外務省がたかが一議員の圧力に,完全に服従していうがままになっていたことである。どんなに強い恫喝であったとしても,そんなことでいうことをきいてしまうことが問題である。ムネオハウスにしても,ジーゼル発電所にしても,北方領土の支援事業としては,国策にしたがった正しい判断だったのではないだろうか。だったとしたら,恫喝があろうがなかろうが実施したはずであり,恫喝により早まったのか遅れたのかが問題で,早まったのならばむしろ功労者ではないか。

 地元業者が受注できるように圧力をかけたというのも,根室出身の議員だったら当然のことで,それがまずいというならば,それを受け入れた外務省こそが問題である。

 地方出身の議員が地元への利益誘導をはかるのは議員の重要な使命の一つ,と言ってはばからないのは,あの亀井静香である。その見かえりがあれば収賄だというものの,きちんと政治献金で処理されておれば,何をかいわんやである。

 それに,同様な構図はゼネコン王国日本のどこでも見られる構図ではないか。自民党は基本的にはこの構図で成り立っている党のはずであるから,早いとこ鈴木宗男を離党させて一件落着にしたいことであろう。

 支援事業などは,誰かの献身的(?)努力なくしては,お役所仕事になってしまい,遅々として進まないのではあるまいか。その献身的(?)の中になんらかのインセンティブがあるとしたら,それは,高貴な社会奉仕の精神でなかればいけないのだろうか。インセンティブのなかに自分の名誉や名声が含まれていたり,政治献金というニンジンが存在したら悪なのだろうか。

 以前,厚生省の岡光次官が,5年間に特殊養護老人ホームを12箇所も作り,業者から6000万円もの賄賂を受け取ったとして,大きく騒がれた事件があった。曰く「福祉を食い物にした」ということであった。しかし,5年間に特殊養護施設予算を10倍にも増加し,しかも5年という短期間に,12箇所も建設したということは,これからの高齢化社会でもっとも困難な,特殊養護の問題の改善に大きく貢献することはまちがいないことであった。本来ならば,厚生省の庭に胴像が建ってもよさそうな功績だと思う。ただし,6000万円の収賄に対する処罰は受けなければいけない。それはそういう法律になっているからである。業績に比べて6000万円というのは余りに少額ではあるが,法は法である。「功罪相半ばする」という言葉があるが,功が9で罪が1のような気がする。ところが,マスコミ報道は,罪が9.99999で功は0.00000という感じであった。以降,特殊養護の問題は,介護保険に移され,何の解決にもならず,家族に地獄の負担を強いることになっている。

 鈴木宗男は北方領土支援事業,岡光次官は特殊養護老人対策事業,いずれも本気で取り組むべき問題ならば,外務省も厚生省も,特殊な力が作用しなくても推進しなければならない事業であろう。少なくとも,河口堰や山の中の高速道路よりはずっと優先度が高いはずである。ところが,世間一般では河口堰や高速道路の方が優先度が高い。それは国民からの視点ではなく,ゼネコン,官僚,族議員からの視点であり,それが俗にいわれる利権構造というやつであろう。

 この利権構造に反したプロジェクトを推進しようとすると,鈴木宗男や岡光次官のように,並々ならぬムリを通さなければ実現できるものではない。

 ところで,鈴木宗男ごときの一議員の圧力に何故外務省は従ってしまったのだろうか。

 週刊誌の伝えるところによると,鈴木宗男の恫喝に耐えきれず自殺した官僚もいたという。上司から恫喝されたわけではなく,外部の者からの圧力など,本来聞き流せばよい種類のものであるにもかかわらず,自殺するほど苦しかったと言うことは,その者が弱かったからだろうか。この種の事件が報じられる度に,エリートは苦労知らずだから,ちょっとしたことにも気にし過ぎて,追いこまれてしまうといった報道がなされる。

 総会屋に脅されて言われるままカネを払ったとか,追求に耐えきれずに自殺した銀行のトップもいた。いずれもエリートの弱さで処理されるが,実際は違うはずだ。

 外圧に対しトップがことなかれ主義の態度をとるため,そのしわ寄せがすべて下部に来るため耐えきれなくなるのだ。外務省のケースも,事務次官以下が事なかれ主義を貫いた結果,問題は起こすな,省の方針は厳守せよでは,実務者は自殺するしかないか,地方左遷を覚悟しなければならなくなる。この構図は官庁よりむしろ一般企業に顕著である。なぜならば,官庁は法を盾につっぱねられるからである。一般企業では,支出は減らせ,お客様本位を守れ,ましてやお客様を怒らせるなどもってのほかと,実務者に圧力がかかる。

 雪印のミートセンターの所長が,独断で輸入肉を国産と偽って出荷した事件があったが,

わたしは,その所長があわれでならない。所長といえども一サラリーマンに過ぎない立場で,だれが好き好んでそんな詐欺に手を染めるだろうか。その差額全額が自分の収入になるというならともかく,日本の企業のサラリーマンの場合,業績評価だって,極わずかの差しかないはずである。多分上層部からの目標達成の圧力が強く,自殺か詐欺かの選択まで迫られていたのではあるまいか。

 商工ローンの社員が借金の取り立てに際し,腎臓売れ,目ん玉売れと迫った事件があったが,これも目標達成を迫られたサラリーマンのつらいあがきであったような気がしてならない。

 グローバリズム市場原理主義の時代に,競争こそ社会発展の原動力とされているが,ますますサラリーマンの受難の時代がやってくる。事実,4050代の自殺が増えているという。

                                  以上